青森地方裁判所 昭和27年(行)3号 判決
原告 栗林忠右衛門 外十名
被告 柏木町選挙管理委員会
一、主 文
被告委員会が昭和二十六年十二月十五日柏木町長相馬彌左衛門解職請求者署名簿に署名押印した者が選挙人名簿に記載された者であることの原告等の証明の請求を却下した処分はこれを取消す。
訴訟費用は被告委員会の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は主文と同趣旨の判決を求める旨申立てその請求の原因として、原告等は柏木町長相馬彌左衛門解職請求代表者としてその証明書の交付を受け同町長解職請求者署名簿に千百七十名の署名押印を得てこれを昭和二十六年十二月十三日被告委員会に対し右署名簿に署名し印をおした者が選挙人名簿に記載されている者であることの証明を求めて提出したところ被告委員会は右署名簿に添付した解職請求書に掲げる(一)同町長の監査委員公平委員資産評価審査委員及び農業推薦委員の推薦はすべて一方的である。(二)同町昭和二十六年度春期施行の町道補修工事は見算書と著しく異り不正工事である。(三)公入札は予定価格に近接したものに対し落札するものではなく入札高の低いものに落札すべきである、しかるに同町大坊小学校の入札をみると予定価格と落札価格の差は僅四十円に過ぎない。これは同町長が落札者に対し予定価格を漏したことによるものである。(四)同町長は役場職員に対し不当な馘首、派閥的差別待遇をなし定数超過による解職をした際は極めて不公平な取扱をした。(五)大坊小学校増築工事は極力一般経費を節約し町民の負担を軽減し以てその完成を期すべきに拘らず不必要な工事監督委員なるものを設けて多額の費用を支出した。(六)同町長はあらゆる施政に熱意がなく町長としてあるまじき数多の非行をなし常に交際費を濫費し町民に多大な迷惑をかけその負担を大ならしめているとの旨の六項目の請求要旨について調査しこれに対し夫々(一)これら委員の推薦は総て法令の命ずるところにより町議会の承認を経て行われるものであるから一方的である筈はない。(二)この工事は町の議決機関でありしかも監視機関である町議会の選任した常任土木委員の監督下に施行されたもので不正介入の余地はない。(三)予定価格に近いものに落札することは近来一般の慣行であり明に適法である、又予定価格を落札者に対し事前に漏した事実はない、単なる臆測である。(四)元来町役場職員の任免は町長の職権に属するものであつていやしくも町長において非適格者と認定した以上これを罷免することは当然の処置であり何等差別的待遇の事実はない。(五)町の執行機関である町長の責任上専門の知識を有する技術員を工事監督のため採用するのは当然のことであつて且最善の方法であるというべきである、これを批難することは全く笑止の沙汰である。(六)抽象的なことを述べているに過ぎないから問題にならないとの旨の見解を示し、地方自治法第八十一条所定の解職請求は地方自治団体の長が長期にわたる疾病のため職務執行不能のとき、刑事被告人として訴追を受け信望を失つたとき、或は議会と衝突し非が長にあり将来円満な行政の運営が期待できないとき又は失政多く改善の見込がない場合等に限り発動されるべきものであるから右はいずれも解職請求の理由に該当しない、若しこのような理由に基ずき公正に選ばれた町長の解職を請求することができるとしたならば地方自治の自主自律性を破壊するばかりでなく町政の混乱を招き社会公共の福祉を害することになる、よつて原告等の提出にかかる本件署名簿はこれを審査すべきものでないとし、同年十二月十五日その証明の請求を却下した。しかし乍ら右のように証明の請求を受けた場合選挙管理委員会は解職請求書に示された要旨の当否を判断しこれに従つて証明の請求を却下するが如き権限を有しない、従つて被告委員会がなした本件却下の処分は違法である、よつてこれが取消を求めるため本訴に及ぶと陳述した。(立証省略)
被告訴訟代理人は原告等の請求を棄却する訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求め答弁として、原告等が柏木町長相馬彌左衛門解職請求代表者としてその主張日時被告委員会に対し千百七十名の署名ある同町長解職請求者署名簿を提出しこれに署名し印をおした者が選挙人名簿に記載されている者であることの証明を求めたこと被告委員会が原告主張日時その主張のような理由により右請求を却下したことはいずれもこれを認めるが本件におけるが如く証明の請求を受けた場合選挙管理委員会はその権限として単に署名簿中の署名が正規の署名であることの審査決定証明をなすのみに止まらず解職請求理由の当不当を判断し不当と認めた場合はその証明の請求を排斥することができる、而して原告等の解職請求要旨をみるとその挙示するところは全くの虚構に属し徒に政争の具として解職請求制度を利用しようとしていることが明かである、よつて原告等の請求を却下した被告委員会の処分に違法不当のかどは存しないと述べた。(立証省略)
三、理 由
原告等が柏木町長相馬彌左衛門の解職請求代表者としてその証明書の交付を受け同町長解職請求者署名簿に千百七十名の署名押印を得てこれを昭和二十七年十二月十三日被告委員会に提出し、右署名簿に署名押印した者が選挙人名簿に記載されている者であることの証明を求めたところ、被告委員会は同年十二月十五日これを原告等主張のような理由に基ずき却下したことは当事者間に争がない。よつて右却下処分の当否について按ずるに、凡そ地方自治法第八十一条第二項において準用する同法第七十四条の二第一項の意図するところは解職請求手続の一段階において選挙管理委員会は単に解職請求者署名簿に署名押印した者が選挙人名簿に記載されている者であるかどうかを調査決定し、これを証明することができるものとしこれによつて同法第八十一条第七十四条第四項にいわゆる選挙権を有する者の署名及びその員数を確定し爾後の手続の円滑迅速な進行を担保するにあり、解職請求当否の実質的措置判断はすべて選挙権者の総意に待つべく、選挙管理委員会がかかる措置判断を為すべき権限を有しないことは直接参政を基幹とする解職請求制度の精神に照し極めて明白である。
果して然らば被告委員会が柏木町長相馬彌左衛門解職請求者署名簿に添付した解職請求書に挙示する事項をすべて虚構のものとし原告等の同町長に対する解職請求は権利を濫用するものであることを理由に右署名簿に署名押印した者が選挙人名簿に記載されている者であることの原告等の証明の請求を却下した前記被告委員会の処分はまさにその権限を越えた違法の処分にして取消を免れない。
よつて同処分の取消を求める原告等の本訴請求は正当であるからこれを認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 工藤健作 小友末知 野原文吉)